感動の場-点

まちの広報誌『広報くっちゃん』では、小川原脩作品の紹介ページ「感動の場 - 点」を連載しています。
2024年4月
『無題』(1980年) 小川原 脩 画

 桃色の濃淡で表現されたしなやかな肢体と、ふっくらと太く、特徴的な白い先端のしっぽ。ここには1匹のキツネが描かれています。右から左へと、目の前を駆けてゆくさなか、こちらの視線に気が付き、ふっと立ち止まったかのようです。その口元を見て、私たちもドキッとしてしまいます。ひょろりとした尻尾の「何か」をくわえているのですから。ネズミを捕らえ、巣へと戻るのでしょう。ゆっくりと獲物を味わうのか、お腹を空かせた子ギツネたちが待っているのか、森の奥深くまでは見届けられません。
 輪郭線をほとんど用いること無く、大らかに絵の具を使って仕上げています。明るい赤色の地面に現れる輝かしいパステルイエロー。このフキノトウの軽やかな筆致は、柔らかくみずみずしい春の芽吹きを感じさせます。その他にも、キツネの頭部の背景が黄色で明るくなっていることで、ハッと気が付いた様子を思わせたり、背後のグレーの色味がこれから戻っていく森の中を暗示させるなど、色彩の効果が施されているように思うのです。
 絵から読み取る色や形から、隠されたストーリーや思惑を引き出しながら、絵画と向き合う時間を楽しんでみませんか。文:(E.N.)